ささやかな日常の記録

現在と過去のエンタメなど

小さなYeah3~麦わら帽子

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シーズン3「にせの牧師さん」より

メアリーの麦わら帽子。個人的には夏休みを思い出すだけに、教会へ被って行くのには少々違和感を感じてしまう。

それでも成長したメアリーにとってはオシャレなアイテムなのだろう。このへんの感覚は正直よく分からない。

女性たちは牧師の説教中も帽子を脱がない。人前では帽子を脱ぐのが礼儀と教わっただけに不思議ではあるが、その文化の違いが面白い。

そんな難しいことを抜きにしても麦わら帽子を被ったメアリーが偽牧師を見つめる表情が印象的だ。疑念をもって睨みつけるような表情から、疑いが晴れてパッと明るさが戻った表情への変化に魅せられた。ここで麦わら帽子と夏の青空のイメージがメアリーの青い瞳に重なってしまった。

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この回にはローラはほとんど登場しないため、邦題は「千と千尋の神隠し」に倣って「メアリーと偽牧師の寄付集め」とでもしたいところ。有能なメアリーの鋭い洞察力が偽牧師を変えたと言っても過言ではない。

この麦わら帽子は「赤毛のアン」でも登場するだけに、ローラが被る姿も見てみたかった。「母さんの休暇」ではチャールズがキャロラインに高い帽子を買ってやろうとするシーンがあるが、当時も女性にとってはオシャレの重要なアイテムだったのだろう。最終回にもキャロラインのお洒落な帽子姿が描かれるが、個人的には「ジョニーの家出」で登場する青い鳥の帽子が忘れられない。

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麦わら帽子で思い出すのは映画「人間の証明」で、当時のTVコマーシャルは忘れられない。英語ではStraw hat、これが「ストウハ」に聞こえてしまう空耳が面白い。


人間の証明 テーマ曲 ジョー山中

あの有名なセリフは朝ドラ「エール」にも登場した西條八十の詩から引用されている。

母さん、僕のあの帽子どうしたでせうね

ええ、夏、碓氷から霧積へ行くみちで

渓谷へ落としたあの麦藁帽ですよ…

 これをメアリーに置き換えて想像してみると何だか切ない。

「母さん、わたしのあの帽子どうしたかしら、ウォルナット・グローブで教会に行く時に被っていたあの麦わら帽子よ」

小さなYeah2〜首斬り

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シーズン3「こわい夢」より

首飾りと首斬り。漢字一文字の違いなのに受ける印象は大きく異なってしまう。美と醜、まさに似て非なるものである。

お皿の上にはオルソン夫人の首。ハロウィンの夜にオルソンが夫人の首を斬るところを目撃したローラ。メアリーに話しても信じてもらえず、悪夢を見ることになる。その悪夢の描写がなかなかシュールである。

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ウォルナット・グローブのモンスター?

この回はこれまでの放送と大きく趣きが異なるので、初めて見た視聴者は戸惑ったに違いない。ある意味、ドラマを見続けるにあたっての試金石みたいなもので、これを素直に楽しめるかどうかでドラマに対する気持ちも変わってくるような気がする。

個人的には最初こそ戸惑いがあったが何度も見るうちに楽しくなってきて、今では何の抵抗もなくなってしまった。制作側もこの回が受け入れられたことで安心したのか、良くも悪くも過激なシーンが増えていくことになる。

それでも今ではこの程度の描写でも地上波では放送が難しいかもしれない。昔の大河ドラマでは普通に描写されていた晒首のシーンなど今ではほとんど見られなくなってしまった。何も好き好んで見たいわけではないが、歴史的事実として知っておく必要はあるのかもしれない。今でも「黄金の日日」での衝撃的な処刑シーンは忘れられない。次回が最終回の「麒麟がくる」では光秀の最期をどのように描くか楽しみである。

この回でも首は重要なモチーフとして最後までドラマを牽引する。ホラー映画でよく見る首が転がるシーンも描かれる。これを不謹慎だと怒る人にはドラマを楽しむことは難しいだろう。冒頭、ローラがキャリーに読んでいるスリーピー・ホロウも、首を斬られた騎士が首なし騎士として復活する物語である。ローラが見る夢も「悪夢のオルゴール」ではより過激に描かれて、処刑台まで登場することになる。その怯えるローラの表情も印象的である。

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 なお、首切りは今でも解雇などの意味で普通に使われており、このコロナ禍において怯えている人も多いことだろう。そんな人々を助けるのが政治なのに、国民に自粛を要請しておきながら自らは特権意識で飲み歩いている議員こそ首切りである。

小さなYeah1〜首飾り

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シーズン5「父の愛」より

メアリーが付けている首飾りは手作りである。これを作ったのは一人娘のいる太った男。娘が自分の姿を恥じているのを知った男は出稼ぎに行くと嘘をついて盲学校に住み込みで働くことになる。仕事中に屋根から落ちた男は重傷を負ってしまう。近くにいるのに、娘はそれを知らない・・・。

そんな父と娘を結びつけたのが、その首飾りだった。自分にとっては恥ずかしい存在だった父親が盲学校の生徒からは慕われていることを知り、自分の愚かしさに気づく。

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その作文を読む少女の首にも首飾りがあった。この少女は男が作った機織り機もお気に入りで、その表情が印象的だった。

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ベッドに横たわる男と心配する娘の構図は、シーズン2の「父と子」でのエドワーズとジョンと同じ。どちらも脚本・演出はマイケル・ランドン。悲劇的な出来事があって、お互いを理解することになる。

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ドラマではチャールズが理想的な父親として描かれているので、他の父親は基本的にダメ親父として描かれることが多い。では、この心優しき父親はどうだろう。

外見は人に笑われるほど太っている。肥満の原因は人それぞれであるが、今ではビジネスにおいて不利になることもある。人を見た目で判断するのも差別の一つである。このテーマはシーズン8の「まことの友情」でも少年を主人公にして描かれる。

食欲をコントロールできないという点においては問題はあるのかもしれないが、男の価値はそこにはない。外見や学歴よりも、要は中身ということ。それが原題The Man Insideの意味するところだと思う。そんな男が心を込めて作った首飾りは、たとえ見えなくても光り輝いていたことだろう。

首飾りと言えば個人的には真珠の首飾りを思い出す。映画「ALWAYS 三丁目の夕日'64」でも薬師丸ひろ子から堀北真希に受け継がれていたが、映画「グレン・ミラー物語」での演奏も忘れられない。


グレン・ミラー物語 (1954)  真珠の首飾り  A String of Pearls

ビートルズ・バラード・ベスト20

ビートルズ・バラード・ベスト20」は日本では1980年12月21日に発売された。クリスマスを見込んでのことだと思うが、このアルバムを自分は翌年の1月10日に購入している。ベストではあるが、初めてリアルタイムで購入したビートルズのアルバムだった。

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ビートルズのレコードを初めて聴いたのは中学の頃で、初期のベストである赤盤だった。そして高校に入ってから「サージェント・ペパーズ〜」と「アビー・ロード」を購入した。CDになってから全アルバムを購入したが、当時はこれで十分だった。特に「アビー・ロード」のB面は飽きずに繰り返し聴いたものである。

この「ビートルズ・バラード」は正式にCD化されていないが、レコードとしては珍しく20曲収録で1時間というボリュームで満足できる内容だった。特にジョン・パトリック・バーンによるジャケットのメルヘンタッチのイラストはお気に入りだった。後にこれがあの「ホワイト・アルバム」に使われる予定だったことを知ったが、いずれにせよレコードで手にすることができて良かったと思う。

同封されていた解説は立川直樹。当時大好きだったピンク・フロイドビリー・ジョエルヴァンゲリスなどの解説にも名前があり、今野雄二と共にもっとも信頼のおける評論家だった。その解説にバーンスタインの言葉が引用されており、妙に納得した覚えがある。

ビートルズサウンドは、バッハのフーガにも匹敵する美しさを持っている。あらゆる意味で彼等は、今世紀最大の作曲家である。今世紀ならずとも、少なくともシューベルトよりは上等だろう。

こうしたライナーノーツを一生懸命読んで知識を増やしていったものである。そのライナーにはまだ聴いたことのない多くのアルバムのことが書かれており、読みながらいつか聴いてみたいと夢みたものである。

それから40年、それらのアルバムはCDとして手元にあるものの、未だに封も切っていないものも多い。今は新しいものを聴くのがしんどくて、つい昔よく聴いたアルバムを選んでしまう。

今月はジョン・レノンの「イマジン」とジョージ・ハリスンの「オール・シングス・マスト・パス」も久々に聴き直したが圧倒的に素晴らしかった。

イマジン (2010 Digital Remaster)

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  • 発売日: 2010/10/04
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All Things Must Pass (30th Ann) (Dig)

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 それらのアルバムをプロデュースしたフィル・スペクターが今月16日、コロナにより亡くなった。その罪を犯す前の姿は今年公開予定の(アルバム「レット・イット・ビー」制作現場の)ドキュメンタリー映画「Get Back」(ピーター・ジャクソン監督)でも見られることだろう。


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映画「ジョジョ・ラビット」〜大草原のウサギ

映画「ジョジョ・ラビット」を見た。昨年のアカデミー賞で脚色賞を受賞しており、見たい映画の一本だった。

ジョジョ・ラビット (字幕版)

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  • 発売日: 2020/05/20
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少年の目を通して戦争を描く映画では「太陽の帝国」「戦場の小さな天使たち」を思い出すが、悲惨な戦争をコメディとして描きながら、シリアスな戦争映画と同等の感情の揺れを覚えた。 

太陽の帝国 (字幕版)

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戦場の小さな天使たち [Blu-ray]

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原作はシリアスな内容だったらしいが、それをコメディとして描いた斬新さが脚色賞に繋がったのだろう。とにかく、その作劇の巧みさに圧倒させられてしまった。

ヒトラーを信奉する少年ジョジョヒトラー・ユーゲントに入隊する。そこでウサギを殺すことができなかったジョジョは蔑まれてジョジョ・ラビットと言われることになる。軍国少年ではあるが、気弱で心の優しいところがあるのが分かる。

そんなジョジョが手榴弾を誤って爆発させてしまい大怪我を負ってしまう。この恐ろしい場面をユーモラスに描くのだから堪らない。ジョジョとイマジナリーフレンドであるヒトラーがまるで飛翔するかのように走る姿はまるでアニメそのものである。

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その結果、家に戻されたジョジョはそこに秘密の部屋を見つけて、そこに隠れていたユダヤ人の少女エルサを見つける。そこからジョジョとエルサとのおかしな交流が始まる訳だが、その影響によるジョジョの心の変化が印象的。当時のドイツ人にとってユダヤ人は得体の知れないヘイトの対象でしかなく、これは現代のヘイト問題と同じである。

 当然、ジョジョも最初は通報しようと考えるが、通報したらどうなるか子供ながらに一生懸命考える。そして相手を知ることで、ユダヤ人も同じ人間であることを学んでいく。それがやがて恋の感情にまで昇華されていくことになる。

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ここまで書いてきて、これまでも同じようなことを書いていたことに気がついた。ドラマ「大草原」を見ての感想と同じである。ドイツ人とユダヤ人との関係は、白人と黒人、白人と先住民、北軍と南軍といった対立構造と同じである。

そんな盲目的な思い込みが良き指導者によって壊されて、新たな視点がもたらされる。メアリーにとってアダムがそうであったように、ジョジョにとってエルサがそのような存在となっていく。

最初は通報しようと思っていた存在を必死で守ろうとするジョジョ。そんな危機的状況の中で「ハイル・ヒトラー」が延々と繰り返されるというブラック・ユーモアナチスの愚かしさを際立たせて見事。

しかし、どんなにユーモラスに描かれていてもシリアスな現実は存在する。広場に吊るされるという悪夢の光景はドラマ「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」でも衝撃的に描かれていたが、その靴紐を結び直すジョジョの姿には胸が締め付けられた。そして連合軍がやって来ての危機・・・。そんなジョジョを守るべき存在を演じたスカーレット・ヨハンソンサム・ロックウェルも印象的だった。

監督・脚本はタイカ・ワイティティニュージーランド出身で「マイティ・ソー バトルロイヤル」を見てはいたが、こんなセンスの良い演出と演技(ヒトラー役)をするとは思わなかった。

音楽はマイケル・ジアッチーノで、2004年の「Mr.インクレディブル」以来、ピクサーのアニメを多く手掛けていることもあってファンタジーの雰囲気が濃厚でもあった。それだけに最初はヒトラーだけではなく少女もすべて妄想ではないかと思ったくらいだ。

少年がポスターを貼るシーンを見て、手塚治虫のアニメ映画「ある街角の物語」を思い出した。空想の友達ということでは「るんは風の中」みたいだし、戦時下での恋では「紙の砦」など多くの作品を連想した。ヒトラー・ユーゲントの描写では「アドルフに告ぐ」を思い出したが、この作品くらいのスケールで映画化して欲しいものである。

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ユダヤ人の悲劇ということなら、何よりも「アンネの日記」がある。そこにも空想の友達であるキティが登場する。その日記を中学時代に読んだことは鮮烈な記憶となった。とにかく中学生くらいまでに、こうした作品に映画でも本でもいいから触れておくことは何よりも必要なことである。この映画も多くの中学生に見てもらいたい。

とにかく見どころが満載の映画だけに書きたいことは色々あるが、それを理路整然と書くのは難しい。どうしても支離滅裂な感想になってしまうのが我ながら情けない。それでも予備知識の少ない新作映画でも、こうして好きになってしまうのは嬉しいものである。思春期特有の感性などとうに無くなってはいるものの、微かな残滓はあるようである。

それを意識できるようになったのはドラマ「大草原」を見続けているせいかもしれない。大人の視点だけでなく、時にはあの頃の感性で見ていることもある。ローラとメアリーに感情移入してしまうのも悪くない。

この映画でも10歳のジョジョに感情移入して見ていた自分がいたのは間違いない。ヒトラーを崇拝しているジョジョ田中角栄を尊敬していたあの頃の自分に重なる。エルサへの想いは初恋の記憶を甦らせる。

そんな記憶は冒頭に流れるビートルズの「抱きしめたい」を聴いても鮮やかに蘇る。劇中にはトム・ウェイツの苦い歌も流れるが、やはりラストのデヴィッド・ボウイの「Heroes」で最高潮を迎える。この歌でレッツ・ダンスのラストショットの素晴らしさは忘れられない。たまたま今月はビートルズデヴィッド・ボウイをよく聴いていただけに何だか運命的なものを感じてしまった。


David Bowie - Heroes (Official Video)

そして個人的には動物で一番好きなウサギに反応してしまう。この映画ではジョジョを象徴する存在である。弱々しい存在であるが、その跳躍力は大きい。ドラマ「大草原」の最終回は爆破ばかりが話題になるが、最後に小さな家の前にいるのがウサギだということを忘れてはならない。ジョジョとエルサの異文化交流はあの大ヒット映画「E.T.」をも想起させるが、その冒頭にもウサギは登場する。それから母親を演じたスカーレット・ヨハンソンはいかにもバニーガール姿が似合いそうなゴージャスさだった。

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最後にメアリー推しとしては吹替版でエルサの声を演じていたのが清水理沙だったのが嬉しかった。そこにメアリーのイメージが重なり、ジョジョの気持ちにより共感することができたのは言うまでもない。


タイカ・ワイティティ監督がヒトラーに!映画『ジョジョ・ラビット』日本版予告編