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「スネーク・アイズ」と大好きな映画について

昨夜、WOWOWで久々に「スネーク・アイズ」を見た。1999年公開のブライアン・デ・パルマ監督作品。2月27日が初日で、3月5日に観ている。デ・パルマ作品は1977年公開の「キャリー」以来、ほとんど映画館で観ているくらい好きだ。

本作の前が1996年公開の「ミッション・インポッシブル」。当時、大ヒットした。監督自身の嗜好を極力抑えてエンターテインメントに徹したメジャーな傑作だった。脚本はデヴィッド・コープ。これまで「ジュラシック・パーク」や「カリートの道」などを担当し、どちらも大好きな作品だ。

そんな2人が再びタッグを組み、主演はニコラス・ケイジ。面白くない訳がないと思っていた。ところがどうしたことか、すべてが中途半端で不完全燃焼のまま終わってしまった。決して、つまらなかった訳ではない。スタジアムという限定空間の中でのアクション、そしてサスペンス。冒頭の長回しや、俯瞰による撮影など、監督の映像テクニックも全開だ。ニコラス・ケイジのいかれた演技も健在だ。それなのに、なぜか胸に迫ってこない。

デ・パルマ映画の主人公は、どこか心に傷を負っており、そんな彼らが必死になる姿が胸を打つ。本作でも汚職刑事の主人公が巨悪に立ち向かい、傷だらけになる姿を描いている。ただ、そのモチベーションが弱い。

ハリケーンの襲来と、室内をカットバックさせながらサスペンスを盛り上げるシーンは見事だ。傷ついた主人公が、目撃者たるヒロインを必死で守ろうとする。そこに坂本龍一の流麗で哀感の漂うメロディが流れ続ける。シチュエーションとしては大好きなシーンだが、いまひとつ心が動かない。サントラのジャケットはニコラス・ケイジの鋭い眼が印象的。SNAKEとEYESの間にヒロインらしき後ろ姿があるが、分かりにくい。

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このシーンを見ながら、思い出したのが「ファントム・オブ・パラダイス」のクライマックス。狂乱の舞台の中で、傷ついた主人公が、ヒロインを救おうとする。同じようなシーンではあるが、何度見ても感動してしまう。ヒロイン役はジェシカ・ハーパー。「サスペリア」の主演でも有名だが、美人ではないものの実にチャーミングだ。音楽担当はポール・ウィリアムス。すべての楽曲が素晴らしい。ジャケットのイラストも最高だ。

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「ファントム」にあって「スネーク」にないものは、切ない恋心といってもよい。要はそこに至る過程で、どのくらい恋心を高めていくことができるかということ。自分にとって映画を観ることの重要な要素の一つに、ヒロインに恋をするということがある。これは恋愛映画に限らない。ヒロインが女性である必要もない。主人公が気持ちを寄せる対象ということだ。

スネーク・アイズ」には二人の女性が登場する。一人は冒頭に登場する赤いドレスの謎の女。実はラストの伏線となる物を持っているが、これが実に分かりにくい。もう一人が暗殺の目撃者となる白いスーツの女。このヒロインの設定があまり魅力的でなかったのが、本作のウィーク・ポイントだ。

かつてのデ・パルマ映画にはナンシー・アレンという魅力的なヒロインがいた。彼女がヒロインの「ミッドナイト・クロス」も大好きな映画だ。主演はジョン・トラボルタ。本作を見て、タランティーノ監督が「パルプ・フィクション」にキャスティングをしたという。それくらいトラボルタも主人公として魅力的だった。この映画でも傷を負った主人公が、ヒロインを救おうとする名シーンがある。俯瞰で撮ったビルの間を疾走するシーンは忘れられない。撮影監督はヴィルモス・スィグモンド。同監督の「愛のメモリー」や、スピルバーグ監督の「続・激突!/カージャック」「未知との遭遇」、そしてチミノ監督の「ディア・ハンター」など、どれも素晴らしい。花火をバックに哀切極まりない音楽を作曲したのがピノ・ドナッジオデ・パルマ作品には欠かせない作曲家だ。叫びの映画のジャケットは、トラボルタの叫び顔。

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坂本龍一も日本が誇る作曲家であり、自分も好きなアーティストの一人ではある。でも、デ・パルマ映画での相性はさほど良くはなかった。次作の「ミッション・トゥ・マーズ」ではエンニオ・モリコーネが復帰する。2002年の「ファム・ファタール」で再びタッグを組んだが、残念な結果に終わってしまった。

主演のニコラス・ケイジも好きな俳優の一人だ。1985年の「バーディ」を見て以来、多くの作品を見てきた。1996年の「リービング・ラスベガス」でアカデミー賞を受賞。そこからが凄い。「ザ・ロック」「コン・エア」「フェイス・オフ」と怒涛のアクション大作に出演。そして「ベルリン・天使の詩」のリメイク「シティ・オブ・エンジェル」をはさんで本作に至る。すべて映画館で観ているし、サントラも魅力的な作品ばかりだ。

スネーク・アイズ」には「もう駄目、一巻の終わり」という意味もあるとのこと。映画も残念ながらヒットせず、デ・パルマ映画の終わりの始まりになってしまった。ニコラス・ケイジの主演作も、その後、映画館で観ることがなくなってしまった。そうした意味でも忘れられない映画の一つである。