ささやかな日常の記録

現在と過去のエンタメなど

疎開生活が楽しいドラマ「まんぷく」

今朝の「まんぷく」は疎開生活の日常を描いて秀逸だった。戦時中だって悲惨なことばかりではない。こうした、ささやかな幸せだってあったはずだ。タイトル前の寸劇から、もう楽しい。

台所で塩漬けをしている福子(安藤サクラ)と鈴(松坂慶子)。そこに萬平(長谷川博己)がやって来る。何か手伝うことはないかと聞くが、何もないと言われる。休んでいてと言われても素直には従えず、散歩に出かけてしまう。

それに対して鈴は「なぜ家長に従えないのか」と憤慨する。当然、福子は家長は萬平だと反論する。そんな三人の力関係が軽妙な会話の中で語られる。安藤の表情がくるくると変わって面白い。

そしてドリカムの主題歌に入る。安藤が浜辺と山道を行進する映像と音楽がシンクロして何度見ても飽きない。頑固で面倒で腹が立つけど、あなたの情熱は私の誇り…といった歌詞が耳に入る。今朝のストーリーはそんな萬平の一面を垣間見ることができた。主題歌が終わるとそのまま今度は長谷川が森の中を歩いていく。

萬平が美しい自然の中を散歩するだけでも十分にドラマになる。虫を愛でる姿に偉人の片鱗を見た。手塚治虫しかり、養老孟司しかり。自分も幼い頃は大好きだったが、今はまったくダメになった。要は凡人だったってこと。

子供達が魚獲りに興ずる姿を見て萬平は閃く。川に電気を流せば効率的に魚を捕ることができる。演じる長谷川が本当に楽しそうで、こちらも少年時代を思い出してワクワクしてくる。結果、大漁となって喜ぶ子供達の姿が印象的だ。

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しかし、取りすぎてしまって鈴に文句を言われてしまう。干物を作りながら、監獄の記憶がフラッシュバックする。ここで萬平の食に対する執着と効率優先主義を見せるのも巧い。

川魚は嫌いと言いながら、美味しそうに食べる鈴。塩焼きに、醤油と味噌を加えていく。まるで、その後のラーメン作りを暗示するかのような場面だ。囲炉裏を囲んだ家族のささやかな食事が暖かい。 

ところが、電気を使ったことで住民から文句を言われてしまう。盗電についてはちょっと気になっていたので、正しいクレームだ。それに対処する三人三様の姿が可笑しい。ここでは萬平の頑固さが伝わってくる。

鈴が縁側で居眠りしている姿や、福子が手紙を書いてる姿も良い。こういう何気ない日常の描写こそがドラマの肝だったりする。たった15分の中で戦時下のささやかな日常を切り取って見せたのは見事だった。

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これを福子から克子(松下奈緒)への手紙として描いたのも良かった。ラストショットが美しい。手紙を読む克子の姿と遊ぶ子供達の姿を見て、ほのぼのしてしまった。

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ただ、この幸福感が強調されると、必然的に絶望感も大きくなる。このドラマはそうした緩急のつけ方も巧みだから、これからの展開が気になる。なんだかんだ言っても、まだ戦時下なのだ。

福田靖の脚本が良いのは当然として、演出もがんばっている。ロケーションの効果が抜群だ。今週の演出を担当しているのは、安達もじり。まるで15分の短編映画を観たような満足感があった。

たまたまBSPで再放送している「べっぴんさん」も今週は彼の担当だった。敗戦後の混乱期、闇市の描写がリアルだ。ただし、このドラマではあまり意味がなかったような気もする。

ここに予算を使い過ぎたのか分からないが、後半がグダグダになってしまった。主人公の女学校時代をもっと見たかった。今朝の放送では陽だまりの部屋の中で編み物をするシーンが印象的だった。芳根京子はじめ、土村芳も、百田夏菜子も、本当に魅力的だった。息苦しい世の中で、自分の好きなことに夢中になって、自己を開放していく姿は美しい。

そうした戦中戦後は当然ながら、現代にも同じような息苦しさがある。「獣になれない私たち」の主人公たちは自己を開放できないから、見ていて息苦しい。おそらく主人公がどのように自己を開放していくのかが見所なんだと思う。

しかし、今の視聴者は総じて持久力がないから、面白くないとすぐに離れてしまう。笑顔の少ない新垣結衣は確かに見ていてしんどいが、等身大の魅力がある。それでも繰り返し見たいのは、そうした彼女ではないのも事実。「逃げ恥」を全話録画した自分がまだ録画を残していないのが何よりの証拠。

その一方で「フェイクニュース」は最高に面白かった。「アンナチュラル」の初回を彷彿とさせる展開に息を呑んだ。これまで苦手だった北川景子が実に魅力的だった。後編が楽しみでならない。