金曜の夜はドラマで生と死に向き合う時間になってしまった。10時からの「透明なゆりかご」は今回も圧倒的だった。タイトルの不機嫌な妊婦を演じるのが朝ドラ女優の田畑智子。
その存在感たるや凄いの一言。最初は単なるクレイマーに見えたのが、だんだんとその背景が分かってくる。怒りから哀しみに転じ、諦めから共感に至る。そうした感情の微妙な変化を納得させる描写が見事。わずか45分という時間の中で丁寧に感情の揺らぎを紡いでいく。今の朝ドラのようにただ不機嫌なだけではないのだ。
そうした妊婦に正面から向き合うことでヒロインも成長していく。主演の清原にとって、田畑のようなベテランとがっつりと組むのは得難い経験だっただろう。この二人のシーンはすべて可笑しくも印象的だった。そこには喜怒哀楽のすべてがある。
今回もヒロインが患者のことを想像するシーンが秀逸だ。空になったベットを直しながら、そこで繰り広げられたであろうことを思う。陽のあたる病室でのシーンは涙なしには見られなかった。その涙は本物だったのだろうか。医学的には聞こえないと分かっていても、聞こえていて欲しいと願う気持ちは切ない。患者を前にして、ただ真実を話してしまうヒロインの一本気さが良い。
人生において絶対はない。人間は死の直前においても迷ってしまう。先週から始まった「dele」の第2話はちょっと予想外の展開で、やられてしまった。
初回はアクションも含めて金城一紀の警察ドラマみたいで新鮮味はなかった。今回は音楽が重要なテーマになっていて最初から引き込まれてしまった。山田孝之と麻生久美子が演じる姉弟が音楽を聴く姿に笑ってしまった。自分もまったく同じで、クラシックの演奏会でもやってしまって怒られた経験もある。
その聴いていた音楽のメンバーが実は・・・という展開。消したかったデータをなぜ死の直前に取りやめたのか。そこには音楽を介した父と娘の確執があった。その娘役が水曜日のカンパネラのコムアイというのが意表をつくが、まさに適役だったりもする。彼女の音楽の世界観とデータの中身がある意味共通していたりする。岩崎太整とDJ MITSU THE BEATSの音楽が実に心地良く響いている。
彼女が勤めていたガールズバーの同僚が石橋静河というのも分かっている感じ。石橋は「夜空はいつも最高密度の青色だ」でも同じような役を演じて見事だった。青つながりで「半分、青い。」では律の妻役になっているが、空気のままなのが残念。来週以降、見せ場がないとしたら脚本家は本当に無能になるが、そんなことはないと思いたい。
最後に彼女が「産んでくれてありがとう」と言うのが印象的だ。そんな石橋を産んでくれたのが原田美枝子。「透明なゆりかご」では婦長を演じており、これで2つのドラマがつながった。どちらも1回見ただけでは消化できない濃厚さで、これからも金曜の夜が楽しみである。