ささやかな日常の記録

現在と過去のエンタメなど

ドラマ「この世界の片隅に」と「透明なゆりかご」をつなぐもの

今朝のニュースのトップは安室奈美恵の引退についてだった。ニュースの価値を判断するのは人それぞれ。自分にとってはどうでもいいことだ。それでも、CAN YOU CELEBRATE? は好きな曲に似ているということで好きな歌である。ドラマ「バージンロード」は和久井映見を目当てで見ていたが見直したいとは思わない。

樹木希林の訃報は総裁選に次いで三番手だった。自分にとっては安室よりも、はるかに価値が高い。意識してテレビを見始めた時から、確たる存在感があった。ドラマでは「寺内貫太郎一家」と「夢千代日記」が忘れられない。単発ドラマでは山田太一作で川谷拓三と共演した「ちょっと愛して・・・」が好きだった。

その「夢千代日記」はヒロインが広島での胎内被爆者という設定だった。今年の夏は久々にヒロシマについて色々と考えさせられた。その要因の一つがドラマ「この世界の片隅に」だった。

全9話で昨夜が最終回だった。節子との出会いがどう描かれるかが心配だったが、杞憂に終わった。駅でのシーンは実写ならではのリアルな描写で泣かされた。傍に寄り添うことの意味を見事に映像化していた。ラストは賛否あるだろうが、ドラマならではの現実的な描写で悪くなかった。

何よりも今の節子を演じたのが香川京子だったことが素晴らしかった。戦争映画では今井正監督の「ひめゆりの塔」に出演し、転機になったとのこと。沖縄と言えば安室の出身地であり、今月には知事選もある。戦後の問題はまだ終わっていない。

ドラマではヒロインすずの妹が被爆で床に伏している描写があった。演じた松本穂香久保田紗友が仰向けになって語り合うシーンが印象的だった。この二人をはじめ、土村芳伊藤沙莉など朝ドラの脇役出身者が皆良かった。

この被爆者の10年後の日常を描いたのがこうの史代の「夕凪の街」だ。ドラマ「夕凪の街 桜の国2018」では川栄李奈が演じて感動的だった。ようやく原作の漫画を読むことができた。わずか100ページ足らずの薄い本だとは思わなかった。ところが内容は濃密ですっかり圧倒させられてしまった。

ドラマでは「夕凪の街」はほぼ原作に忠実だった。印象的だった銭湯のシーンもモノローグを含めてほぼ同じ。ところが「桜の国」は細かい改変が色々とあって、その違いが新鮮だった。

常盤貴子が演じた七波が28歳と若いことからくる違い。言葉ではドラマで衝撃的だった「なんで死なんかったん」が違っていた。これが原作では「なんであんたァ助かったん」になっていた。同じ意味でも、だいぶ印象が変わってくる。

これでドラマ版では強いインパクトを与えたので改変は成功だったと言えるだろう。それくらい強烈な言葉なのに、今の朝ドラでは何の意味もなくヒロインに言わせてしまった。たかがドラマなれども言葉の選び方ひとつで印象はまるで変わってしまう。「桜の国」の原作で印象的だったモノローグがある。

生まれる前

そう

あの時わたしは

ふたりを見ていた

そして確かに

このふたりを選んで

生まれてこようと

決めたのだ

ドラマ「透明なゆりかご」にも同じようなモノローグがあった。優れた創作にはどこか似たようなところがある。自分にとってはこれで「この世界の片隅に」「夕凪の街 桜の国」「透明なゆりかご」が一つにつながってしまった。

 前回の「透明なゆりかご」でちょっとだけ出てきた妊婦役に見覚えがあった。傷ついた少女に赤ちゃんを見せてあげるためだけに出てきたともいえる小さな役だ。クレジットを見たら元宝塚娘役の宮本真希だった。ちょっとでも印象に残るはずである。

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個人的には宮本というと相棒Season7の最終話「特命」が忘れられない。初めて及川光博が登場した回で、まさに薄倖のヒロイン的な存在だった。その宮本が前回の土曜時代ドラマ「赤ひげ」にもゲストで出演。こちらでも悲劇的なヒロインおなか役を熱演していた。

「赤ひげ」といったら黒澤明の映画で有名である。このエピソードは映画では山崎努桑野みゆきが演じて印象的だった。実はこの映画には香川京子も衝撃的な役で出演している。黒澤映画での香川は「悪い奴ほどよく眠る」も「天国と地獄」も実に魅力的だった。モノクロの映像の中で光る美しさがあった。

「天国と地獄」ではパートカラーとして一瞬、色がつく。希望の煙だ。「透明なゆりかご」では希望の雲が描かれた。

その前回のタイトル「透明な子」について、ずっと考え続けている。透明とは光を通すこと。このドラマでは光の演出が秀逸だった。

光は希望の象徴だから、希望という意味なのかもしれない。逆に光が通り抜けてしまう絶望的な状況を意味しているともいえる。傷ついても周りの大人に支えられて生きていって欲しいという願いなのかもしれない。

または濁りのない純粋な存在ということかもしれない。成長することは透明なものに少しずつ色が付いていくことなのかもしれない。何となく使っている「透明な○○」って言葉も意外に奥が深いと思った次第。

それにしても「透明なゆりかご」も「この世界の片隅に」も子役が凄い。前回の「透明なゆりかご」で抑えた演技をした根本真陽は、「夕凪の街 桜の国2018」でも印象に残っている。

彼女が演じた京花が母親になり七波を産む。上記のモノローグは七波がその母のことを思っての言葉だ。ここでも、二つのドラマが重なったようで感慨深い。