ささやかな日常の記録

現在と過去のエンタメなど

ドラマ「透明なゆりかご」最終回の余韻

朝から冷たい雨が降り続いている。ちょっと前までの暑さが嘘のように、すっかり秋の気配だ。

昨夜の「透明なゆりかご」最終回の余韻が消えない。何から書いていいのか分からない。これまでも毎回そうだった。

見て、感動して、それを何とか言葉にしたいと思った。思いを言葉にして定着させる作業は難しい。思いの半分も伝えられていないと思った。それでも言葉にすることで残るものが確かにあった。

このドラマの登場人物は決して雄弁ではなかった。だからこそ数少ない言葉に説得力があった。若き医師(瀬戸康史)が葛藤の末に話す言葉は重かった。

助からない命を前にして父親(金井勇太)から「先生ならどうする」と問い詰められる。それに対して、医師としては治療をすべきだと答える。しかし、それを決めるのはあなたたちの責任だと突き放す。

夫婦の決断が切ない。タイトルは「7日間の命」。もう、これだけで泣けてくる。その事実を前に自分だったらどうするかと考えざるを得なかった。

個人的なことだが、妹が同じような心臓病だった。手術をしないと助からない命だったが、中学生になって無事、手術をすることができた。その頃、自分は高校生だったが命の問題に直面した。多少の助けになると思って級友たちに献血を呼びかけ協力してもらった。その後、妹はアオイと同じ看護師になり、母にもなった。そして自分も家族の病気に直面し、選択を迫られた。今でもそれが正しかったかは分からない。

そこには答えなんかない。自分のエゴだったとしても、それを咎めることはできない。子を亡くした灯里(鈴木杏)に対してアオイ(清原果耶)が優しく話しかける。

わたしは嬉しかったです

母にギュッとしてもらえたとき

すごく

子どもがお母さんにしてもらいたいことなんて

それくらいなんじゃないでしょうか

 その言葉を聞いて灯里は幼い頃に亡くなった母のことを思い出す。「私の代わりにいっぱい抱きしめてあげて」鈴木杏の涙の演技が圧倒的だった。

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その願いが描かれたシーンの美しさはこのドラマの到達点である。柴田岳志の演出が素晴らしい。初回から4話までの演出が個人的には好きだった。

リアルとファンタジーの境界が曖昧なので分かりにくい演出ではある。そのあたりを分かりやすく演出したのが5話以降を担当した村橋直樹だ。そして9話のみ鹿島悠で、新人女性ディレクターならではの演出だった。そして再び最終回であの演出が戻ってきた。

このワンカットに込められた思いに胸が締め付けられた。そこにアオイのモノローグが重なる。

ここは生まれる命と消える命が絶えず交差する場所

でもトモヤくんは透明な子ではなかった

アオイが透明な子として慈しんできた形のない存在に対し、この子はわずか7日間でも、この世に生を受けて母に抱きしめられた。それはもう透明な子ではない。同じ消えゆく命であっても、その違いは大きい。

透明なカプセルと小さな白い棺。その差異について考えさせられた。ラストは晴れてナース帽を被ったアオイが赤ちゃんを抱き上げてのモノローグ。

輝く命と透明な命

その重さはどちらも同じ

そして思ったよりも重かった

だから

どんな子にも言ってあげたい

おめでとう

良かったね

ハッピーバースデーのメロディーと清原のモノローグの響きが心地良い。最終回ではあっても、ここから始まる感じが素晴らしい。悲しい現実を前にしても希望はあるという描き方に救いがあった。あの妻を亡くした青年の姿が印象的だった。

それにしても、このメロディーがこんなに切ないなんて今まで思わなかった。ジャズ・アレンジも良いが、ドラマでのアレンジが忘れられない。清水靖晃のサントラが発売未定だなんて切なすぎる。

未熟なアオイの目を通して紡がれたストーリーは、まるでドキュメンタリーのようだった。同じ目線で周産期医療の現実を見ることができた。おそらく実体験に基づいた原作漫画が素晴らしいのだろう。

この夏に見たドラマは漫画原作のドラマが本当に良かった。

義母と娘のブルース

「健康で文化的な最低限度の生活」

この世界の片隅に

「夕凪の街 桜の国」

「宮本から君へ」

「恋のツキ」

などなど、機会があれば読んでみたい作品ばかりだ。そんな原作を元に脚本化した安達奈緒子の手腕も見事だった。淡々とした日常をベースに命の現場を見つめていく語り口は、「コード・ブルー」も同じだった。今思えば戸田恵梨香の役は周産期医療を目指す医師だったし、比嘉愛未が演じたナースが妊娠するエピソードはそのまま本作のベースになったような気がする。 映画「ひるなかの流星」でも永野芽郁の魅力を引き出していた。そうした意味で「俺物語!!」と「アンナチュラル」を書いた野木亜紀子に迫ってきた感がある。

いずれにしても早くも今年のドラマでは「アンナチュラル」と双璧となった。どちらも女性目線で生と死を真摯にとらえたドラマだった。それを男性目線で描いたのが「dele」だった。

その二つのドラマを同時に楽しめたのが最高だった。二つを比較することで感想を書くことができたところもあった。拙い文章ながら、自己満足するには十分だった。そんな記事が検索できるようになったのが嬉しかった。

それだけではとても見つけることができない文章が、合わせ技で見つけることができた。日々刻々と変化していく検索エンジンの中でのささやかな楽しみ。「透明なゆりかご」と「dele」を合わせた検索でついにトップになった。まさに自己満足の極みだ。ドラマも終わって、すぐに落ちていくだろうけど嬉しかった。素晴らしいドラマを届けてくれた方々に感謝である。