ささやかな日常の記録

現在と過去のエンタメなど

ドラマ「anone」第7話

どんな事情があっても、して良いことと悪いことがある。社会のルールの中で生きるということはそういうことだ。それでもルールを破らなければいけないことがある。

「anone」というドラマは視聴率というルールのなかでは悪い結果を残してしまった。今回もさらに下がってしまい4.9%で、ついに5%を切ってしまった。しかし、そうしたルールから外れてしまうと、これほど面白いドラマはない。世間一般と違うこと。冒頭で持本(阿部サダヲ)と青羽(小林聡美)のマイノリティ談義が楽しい。そして、ついに偽札づくりに手を貸すことを決意する。

そうした、それぞれの決意が描かれるが、妙に爽やかなのはなぜだろう。反社会的な偽札作りの行程が楽しい。浜辺の自販機で結果を試すあたりの描写は北野映画ソナチネ」を彷彿とさせる。沖縄の海で無心に遊ぶ反社会的な存在であるヤクザの男たち。それと同じような絆で結ばれた擬似家族。

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ハリカはハリカで底辺の仕事を必死でこなす。そんな姿がたまらなく愛しい。

そんなハリカを母のように見つめる亜乃音。そんな亜乃音を演じる田中裕子の存在感ときたら、さすがの一言。ハリカを守ろうと必死に説得する亜乃音の姿は母そのものだ。先日の「アンナチュラル」と共鳴するかのようなセリフが優しく響く。

あなたまだ19、まだ19なの。楽しくていいの。

自分が幸せになること、考えていいの。

オシャレしたり、お友達と買い物行ったり、カラオケ行ったり、デートしたり、

あなたと同じ年の娘たちはそういうことしてるの、

あなたもそれでいいの、楽しくていいの。

もっと自分が楽しく生きることを考えなさい。

それに対するハリカの答えがあまりに切ない。

良いことしても大事な人が死ぬんだったら、

悪いことしても生きててくれる方がいいの。

そうしたいの。それで一生、牢屋入ってもいいの。

 

またもう一回、流れ星見ようねって彦星くんと約束したの。

私はそれを守るの。だから他のことはもういい。もういらない。いらないの。

そうして亜乃音をふりきって、偽札づくりを手伝いたいと中世古(瑛太)の元へと駆けつける。それに対して中世古は言う。

僕はね、これを犯罪だとは思ってない。

金を稼いでいる人は誰だって違うルールで生きているんだ。

 

願い事ってさ、星に願えば叶うと思う?

願い事は泥の中だよ。泥に手をつっこまないと叶わないんだよ。

これは僕が手を汚して手に入れた希望なんだよ。

今回はもう、いちいちセリフが胸に響く。すでに擬似家族は成立しているが、ここでは母と娘の関係が築かれていく。ハリカと亜乃音が並んで台所に立つ。そこでハリカが語る。

大切な思い出って支えになると思う。

お守りになると思う。

居場所になると思う。

そして、ついに亜乃音が折れてしまう。

そーだね。大事な約束したんだもんね。あなたの好きにしなさい。

もし、何かあった時はわたしがお母さんになって、あなたを守る。

ニセモノでもなんでも私はあなたを守る。

私のそばから離れないで。

一つ一つのセリフがこれまでのテーマを語っていく。そして家族を象徴する食卓でストロベリー・ショート・ケーキを食べる場面。冒頭と最後で繰り返される家族としての在り方。透明なセロファンをはがして、クリームを舐める姿こそが家族だということ。

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残念ながら内容について深く考察するための時間も言葉もないが、とにかく印象的な回だった。セリフもそうだが、海辺の風景も記憶に残る。そして何より初回で印象的だった風車が再び登場したこと。幼き日の暗い記憶は、またこうして明るい記憶へと上書きされていくのだろう。

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