ささやかな日常の記録

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ドラマ「anone」第9話

松任谷由実の数多ある歌の中で、個人的に一番好きなのが「最後の嘘」。1996年10月から放映されたドラマ「ひとり暮らし」の主題歌だった。ドラマ自体はもう忘れてしまったが、この歌の世界観が大好きで愛聴している。

昨夜の「anone」第9話を見て、この歌が心の中に響いた。あまりにも切ない嘘の数々に胸が締め付けられた。冒頭で花房(火野正平)が言うセリフが象徴的だ。

嘘はね、嘘で隠すしかないんですよ。

嘘に終わりはないんですよ。

嘘で守った嘘が、結局、君たち自身の心を壊していく。 

それでも嘘をつかなければならないことがある。相手のことを思って必死になってつく嘘はたまらなく美しい。

初めて彦星と会うことになって浮かれるハリカ(広瀬すず)。それを見つめる亜乃音(田中裕子)たちのまなざしが優しい。これまでのセーター姿から鮮やかな赤のカーデガンを着て照れる姿のなんて魅力的なことか。

それだけに彦星の治療のために自ら身を引くことを決意して嘘をつく姿がたまらない。カーテン越しで互いの顔を見ないで交わされる会話。言葉と裏腹の表情はお互いに見ることはできない。若さゆえの残酷な言葉がお互いを傷つけていく。「君のこと面倒くさくなっちゃった」って言いながらの泣き笑いの表情が素晴らしい。

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余命いくばくもない持本(阿部サダヲ)もそうだ。持本と青羽(小林聡美)がしみじみと語り合うシーンの雰囲気が最高だ。こういう何でもない空気感こそがドラマの真の味わいだと思う。芸達者の二人だからこそ醸し出せる恋愛未満の距離感。青羽の願いを知ってしまい、それを叶えられないと分かって自ら去ることを決意する。だが持本の嘘はすぐに青羽に見抜かれてしまう。

「ねぇ、バカ! バカなの?」「ハイ、バカです」

荒涼とした風景の中での不毛な会話から立ち昇る煙のような情感。これまで辛酸を味わってきた男女の不器用な姿が胸をうつ。

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そして失意のままに工場に戻ったハリカの前には警察に連行される亜乃音の姿。駆け寄るハリカに亜乃音は「知らない娘です」と嘘をつく。彼女を守りたいという切実なる思い。茫然と見送るハリカの表情が哀しい。

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こうして偽札で結びついた偽家族は崩壊した。ひとり残されたハリカに、はたして希望はあるのか。ユーミンの歌がハリカの心情に寄り添って聴こえてしまう。短い期間だったけど、そこで暮らした幸せな記憶。彦星の居場所になりたいと願った気持ち。

朝陽が差し込むアパートに

暮らしだしたのは いつの日か

はずしたフレームの跡の壁の白さ

想い出が遠いこと教えてる

 

上手に後悔するために

二人はひたすら黙り込む

ゆうべ散らかしたテーブルはそのままに

愛だけが流れ去り 今日は続く.

 

Tell a lie 最後だけ本当の嘘をついてよ

きみが嫌いになったって

 いよいよ次回で最終回だというのが切ない。切ないと言えば今回の視聴率もそうだ。先週から1ポイントも下がって最低の4.4%。「相棒」の最終回は16.6%、その差は4倍ちかい。それなのに、その内容はどうだろう。6人の警察関係者の嘘が描かれるが、その薄っぺらさはどうしたことだろう。とても輿水脚本とは思えない。ただ来シーズンへと繋げるためだけの2時間だったのに、これが高視聴率。個人的にはそろそろ上手に幕引きしてほしいところだが、これでは難しそうだ。来シーズンに望むことは、もっと上手に嘘をついて楽しませてほしいということ。

現実での醜い嘘はもううんざりだ。「汚い仕事」と言い残して亡くなった方の心中を思うとたまらなくなる。それだけに美しい嘘に彩られた「anone」を見るのは一服の清涼剤のようだった。