ささやかな日常の記録

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「火の鳥」あれこれ

日本映画専門チャンネルにて映画「火の鳥」を見た。以前、市川崑の特集で放映されたようだが、今回は若山富三郎の特集での放映だった。未ソフト化で長年、見ることができなかった映画の1本だった。

公開は1978年8月19日。この頃、自分は「スターウォーズ」に夢中になっていた。8月23日に地方の映画館で2回目を観に行っていた。だから、この映画のことをどのくらい認識していたかは覚えていない。ただ、この頃には原作の「火の鳥」は朝日ソノラマによるワイド版を夢中になって読んでいた。 

火の鳥【全12巻セット】

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 そして夏休みも終わりに近づいた8月27日に長編アニメ「バンダーブック」が日本テレビの24時間テレビ内で放映されて、夢中になって見た。 

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 だから、この映画も見たいと思っていたはずだが、近くの映画館での上映はなく、見ることはできなかった。それでも当時、レコードで発売されたミッシェル・ルグランによるテーマ曲を収録したアルバムを購入した。  

 このアルバムは今でも愛聴盤で記事にもしている。

hze01112.hatenablog.comそれから40年、ようやく映画を見ることができたが、正直言って見なくても良かったと思った。これだけ豪華なスタッフとキャストが揃いながら、どうしてこうなったのかと思わざるを得なかった。これを当時見ていたら、どう思ったことだろう。もしかしたら感動していたかもしれないが、今となっては知る由もない。どんな映画も見るタイミングによって傑作にも凡作にもなってしまう。若いころに見た映画は、それだけで忘れられないものである。

この「火の鳥」は当初、2部作で構想されており、後編ではフルアニメーションで未来編が描かれる予定だったとのこと。残念ながら、それは実現しなかったが、その後「火の鳥2772」として1980年3月に公開されることとなった。この映画も当時、色々な意味で酷評されていたが自分は大好きだった。当時の日記には次のように書いてある。

美しく素敵な映画だった。手塚のディズニー愛があふれる見事なファンタジーだった。とにかく絵がきれいで、音楽も最高だった。適度なギャグも入り、原作の持つ「愛」や「永遠の生命」などのテーマが明確に打ち出されていた。素晴らしいのは火の鳥とゴドーらの対決シーン。変化する火の鳥と逃げるスペースシャーク号に手に汗を握った。それから、なんといってもロボット、オルガの魅力。これは「ヤマト」や「999」などとはまったく違う。それらがリアルに刺激的に愛というものを追求していたのに対して、この作品はピンチョなどのおかしなキャラクターを登場させて、より暖かく、優しく愛を追求していたように思われる。それはオルガによって十分すぎるほど表現されている。それから、宇宙生命や輪廻転生などの宗教的なものや、エネルギー問題などにも言及している。とにかくアニメとしては最高で、改めて見直したい作品でもある。

これを公開直後の3月23日に見ている。当然、地元の映画館ではなく、遠くの映画館まで足を延ばして観ている。同じ日にスピルバーグの失敗作と言われている「1941」も観て大絶賛している。若さとはそういうものだ。

樋口康雄作曲のサントラも最高だった。ルグラン同様、今でも愛聴盤だ。千住真理子のバイオリンの響きに若いエネルギーが漲っているかのようだ。 

〈ANIMEX 1200シリーズ〉(77) 火の鳥2772 オリジナル・サウンドトラック

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 その後、1986年にはりん・たろうによって「鳳凰編」が映像化されたが、これはビデオで見た。2004年にはNHKによってテレビアニメ化もされたが、満足できずに消化不良で終わってしまった。今こそ、ハリウッドでCGによる実写化を期待したいところだが、それこそディズニーでやってくれないだろうかと切に思う。

そんな訳で書きたいことは多々あれども、それを書くだけの能力がないので以下、初めて映画「火の鳥」を見ての感想を備忘録として書いておく。

市川崑

監督の市川崑と言えば、やはり金田一映画という訳で、この映画の前が「獄門島」で、後が「女王蜂」である。やはり「犬神家の一族 」と「悪魔の手毬歌」が双璧であった。この辺をピークに、やはり演出力は衰えていったような気がする。それでも監修を務めた「銀河鉄道999」への功績は大きかったと思う。この映画ではクレジットくらいしか市川らしさは感じられなかった。

谷川俊太郎

一流の詩人ではあっても、一流の脚本家ではなかったと思う。漫画の流れを、すべて映画にしようとしたことに無理があったと思う。映画にするにあたっての取捨選択ができていなかった。漫画において息抜きになるギャグを、そのまま映画に入れてもしらけるだけである。鉄腕アトムやピンクレディが出てきても笑えなかった。

深町純

あくまでもシンセ奏者であって、映画音楽の作曲家ではなかった。だから、ルグランのテーマ曲の断片だけを使っただけで、そこに自分らしさを添えることができなかった。映像と音楽のちぐはぐさだけが目立ってしまった。

若山富三郎

猿田彦を演じた若山が一応、主役ということになるのだろうが、鼻の特殊メークをしての演技はどうだったのだろうか。弁慶のような最期も、もっとタメが欲しかった。若山と言えば、やはり「悪魔の手毬歌」であり、「衝動殺人 息子よ」や「青春の門」が印象的だった。

尾美としのり

この映画でもっとも印象的だったのが、これがデビュー作だった尾美だった。この時の名前の表示はカタカナだったが、声変り前の子役の演技が印象的だった。初めて彼を見たのが「翔んだカップル」だった。その後、「転校生」と「時をかける少女」で忘れられない存在になった。

大原麗子

ちょい役ながら、この映画でもヒロイン的存在だった。ほとんどのシーンで床に臥せっていたが、その美しさに魅せられた。同じ年に「男はつらいよ 噂の寅次郎」にも出演しており、その可愛らしさは別格だった。個人的にはその後に出演した大河ドラマ獅子の時代」のおもん役が至高である。この映画で相手役だった林隆三は当時、「黄金の日日」に出演中で、夢中になって見ていたものである。

由美かおる

今のところ最後の映画出演となっているウズメ役だが、そのメークが凄かった。中途半端なサービスショットもあったが、意味不明。猿田彦との関係をもっと丁寧に描いていれば感動的だったはずなのに残念だった。映画では1974年に「エスパイ」と「ノストラダムスの大予言」に出演しているが、もう一度見たい。ドラマでは「高原にいらっしゃい」が良かった。そこで同僚を演じた池波志乃は「いだてん」に出演中。

草刈正雄

天弓彦を演じた草刈が、この映画ではもっともカッコよい。仲代達矢との対決シーンは最高の場面だったはずなのに、まるで盛り上がらなかった。この頃の草刈だったら「シュマリ」も演じられたかもしれない。