ささやかな日常の記録

現在と過去のエンタメなど

【備考】おばけ屋敷

BS4Kでアンコール放送している「大草原の小さな家」は、すでにシーズン2に入っているが、やはり最高に面白い。前半は4Kで見ていなかったので、尚更である。

今日は「おばけ屋敷」を見たが、改めて良くできたストーリーに感心してしまった。原題はHaunted Houseで、邦題はその直訳である。そのタイトル通りにホラー映画のように始まり、やがて感動的なラブストーリーを孤独な老人の中に見出し、信仰の物語になって終わる。

ドラマのテーマは色々あるが、「傷ついた心を信仰が救う」というのも、その一つである。最初は不気味な老人でしかなかった男が、ローラと触れ合うことによって人間性を取り戻していき、どんどんと魅力的になっていく。そしてローラから渡された聖書を読むことによって、過去の呪縛から解き放されていく。

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前回の記事ではローラが聖母のようだと書いたが、どちらかというと天使的な存在なのかも知れない。いつのまにか相手の心に入り込み、その傷を癒していく。イメージとしては「リボンの騎士」のチンクみたいな感じだろうか。

最初、ローラは蜘蛛の巣を触って、音を出したらいいのになって思う。そんな蜘蛛の巣だらけの屋敷を掃除していくことは、まさに沈黙の館に音楽が鳴り響くようなことだったのかもしれない。

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そして窓をきれいにすること。窓は外界との境界だけに、そこが曇っていることは自分の世界に閉じこもっていることになる。その窓を磨くことは、心を開くことと同義である。このドラマではこの窓が重要なモチーフの一つになっているのは間違いない。窓から見える男の顔はネリーたちには恐ろしいが、ローラには優しい顔に見えるのである。

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そんな窓の他にも女性の肖像画、オルゴール、鏡といったものが、男の心情を映し出して印象的だった。鏡の中に映る自分の顔はすっかり老いてしまったが、妻の姿は若い時のまま。そこにローラの姿が重なり、変化の予兆となる。

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ローラがマンケートに出かけ、劇場を訪ねるシーンも印象的だった。そこに居た男から、老人の妻だったリリーは20年前にコレラで亡くなったことを知る。その男もかつてのリリーの姿を懐かしむ。そんなノスタルジーが胸を打つ。

老人は妻が劇場に戻るために出ていったと言っていたが、本当はリリーも女優を諦めて夫のために残っていたのではないだろうか。そして、ここでコレラに罹り、マンケートの病院で亡くなった。それを悔やんで、新たな物語を作り上げ、世捨て人になったというところであろうか。そんな老人にとって死してなお生き続けるという信仰はまさに救いだったに違いない。

そんな風に色々な想像が膨らむ脚本が素晴らしい。今回は3人の手によるものだったが、まさに色々なアイデアが盛り込まれている感じだった。翻訳ではネリーがローラを「弱虫、毛虫」と言うのが、耳に残ってしまった。ただ、ローラを「姦しい」と言うのは少々気になった。昔のように「チビ家政婦」とか「ひよっこ」の方がチャーミングだ。

演出のヴィクター・フレンチもジャックと黒猫の追いかけっこだけでなく、ローラの魅力を最大に引き出している。ローラのスキップなんて最高に楽しかった。

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同じヴィクター・フレンチの演出だった「釣り友だち」も似たようなテーマで、やはり個人的にお気に入りである。ローラが孤独な男の心を変えていくのは同じだが、信仰ほど大仰ではなく、生きる価値観を改めて考えさせることになる。要はもう一つの「町一番の金持ち」のストーリー。銀行家という町一番の金持ちが本当に幸せなのかということを、ローラとの交流を通して問いかける。最後に男がした善行をローラだけが知っているというのがポイントである。ここでもローラは天使的な存在である。

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