ささやかな日常の記録

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【備考】なつかしの故郷へ〜トビーとハンソン

以前「オズの魔法使」の記事で「家が一番」というメッセージが「大草原の小さな家」と共通すると何となく書いた。

映画でのドロシーのセリフが印象的だったからだが、それは字幕からの情報であって原語のThere's no place like homeを聞き取れた訳ではない。それを理解していればシーズン5の「なつかしの故郷へ」の原題が同じだったことに気づいたに違いない。

この前後編のエピソードはまさに「オズの魔法使」にインスパイアされたことにようやく気づくことができた。前編で登場するトビーを演じたレイ・ボルジャーは「オズの魔法使」で案山子を演じていたのである。

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このギャンブル好きのトビーがトリックスターとなって周囲を掻き回し、結果的にチャールズたちはウィノカを離れて帰郷することを決断することになる。

喧騒の都会生活を経験することで、改めてウォルナット・グローブの小さな家が一番だと実感することができたということである。

ちなみにトビーのギャンブルを止めようとしたガーベイはライオンみたいだし、酒に酔ってギャンブルで大当たりをするオルソンは妻の言動に心を痛め続けていて、ハートを求めるブリキ男に重なってしまった。

そうなると西の悪い魔女的な存在はスタンディッシュということになる。チャールズたちから自由を奪って働かせて、ギャンブルによってその富を奪うが、最後にはしっぺ返しを受けてしまう。

では北の良い魔女的な存在は誰かとなると、やはりキャロラインかもしれない。メアリーと離れたくないチャールズを動かすために、当事者であるメアリーに頼んで後押しをするが、自らは黙って見守ることに徹する。

そのメアリーがチャールズに対して、もう子供じゃないから心配しないでと語りかけるシーンは感動的だ。そんなメアリーはアダムと残り、その代わりにアルバートを連れて行くことになる。

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そして後編からは再びウォルナット・グローブでの生活が始まる。ウィノカでの生活がどれくらい続いたのかは分からないが、家に戻ると雑草は生い茂り、家の中は蜘蛛の巣だらけで、それなりの時間が経ったのは分かる。

 まるで浦島太郎みたいでもある*1。都会での時間はあっという間に過ぎ去り、帰ってみれば故郷はすっかり荒れ果てていたということ。町の創設者だったハンソンも病に倒れ、生きる意欲を失い変わり果てていた。

そのハンソンを救ったのが、町の再建に汗を流した住民の力ということである。雑草を切り取り、家の中を掃除することで町に活気が戻ってくる。人が住まない家が古びるように、住民のいない町は廃れてしまうのである。今の限界集落のことを考えてしまう。

復活した教会の鐘の音を聞いて起き上がるハンソンだが、製材所で働いていたガーベイの祈りが通じたようにも見える。やはり信仰の力も忘れてはならないということだろう。

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教会まで自らの足で歩いていくハンソンの姿が印象的だ。そんな彼を暖かく迎える住民とオルデン牧師。そこで歌われるのが「世界に喜びを」という讃美歌であるが、日本では「もろびとこぞりて」というクリスマス・ソングとしても知られている。

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個人的にはマライア・キャリーのクリスマス・アルバムに収録されていたJoy to the Worldがゴスペル風で大好きである。同じメロディでも歌詞やアレンジが変わると印象も変わるということである。

Merry Christmas

Merry Christmas

  • アーティスト:Carey,Mariah
  • 発売日: 2006/11/14
  • メディア: CD
 


Mariah Carey - Joy to the World (Live at St. John the Divine)

 

なお、ハンソンを演じたカール・スウェンソンはこの回が遺作になってしまったが、この事実を知らなくても忘れられない存在感があった。それだけに最初からこのラストだったのか気になるところ。

そんなハンソンはシーズン1の初回からベイカー先生と共に登場する。「オルソン家の出来事」の回ではベイカーの策略でオルソン夫人を口説く役回りを演じ、シーズン3の「穴に落ちたキャリー」の回ではかつての恋のライバルに敵愾心を露わにするという人間臭い面も見せてくれた。

チャールズにとっても職場のボスとして頼れる存在だったに違いない。たびたび金策をするシーンが描かれたが、常にチャールズの身を案じている姿を見ていると年長者としてこうありたいと思わせてくれたものである。

それに対して現実でのオリンピック組織委員会の会長を巡っての騒動は見るに耐えなかった。未だに日本という国は封建的な村社会であり長老が支配しているのかと思うとウンザリする。政治の世界も同様で、自民党の幹事長などボランティアを人とさえ思っていないようである。

基本的に年長者は敬うべきだと思っているが、その年長者が尊敬できないとなると話は別である。それだけにドラマの中でも魅力的で尊敬できる年長者を見つけるとホッとする。ウォルナット・グローブの創設者であり、製材所を営み、教育委員会のメンバーでもあるハンソンはまさにそんな一人だった。

特に印象的だったのがシーズン2の「町の誇り」。優秀な成績を取り地区の選抜試験に出られることになったメアリーだが、旅費等が工面できずに諦めていとところへ援助の手を差し伸べたのがハンソンだった。

その決定を伝えに来た時も、一人ではなく担任のビードル先生を同伴し、チャールズに負い目を感じさせないように配慮するなど大人の対応が見事であった。そして試験が終わって帰って来たメアリーに対して、町の誇りだと優しく労う姿が印象的だった。

そんなハンソンが最後に町を誇りに思うと言ったのは忘れられない。

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*1:玉手箱の代わりにアルバートを連れて帰ることで、やがてチャールズの髪は白くなってしまう