1966年公開の映画「男と女」を観たことのない人でも、フランシス・レイが作曲したテーマ曲は聞いたことはあるかもしれない。それくらいポピュラーな名曲である。
映画は上京してから名画座で観たが、曲そのものは中学時代には知っていた。おそらく、FMの映画音楽の番組で聴いているはずである。また、スキー場でも「白い恋人たち」と一緒に流れていたような気もする。
当時、スキー場が舞台となった映画「個人教授」をテレビで見て、その音楽に魅せられていたので、長年フランシス・レイの曲ではこれがベストであり続けた。それなのにサントラはなかなか手に入れられなかった。
それに対して「男と女」はカバーも多く、映画音楽のコンピレーションには必ずといってよいほど収録されていた。それだけに、ちょっと食傷気味なところがあって、あまり聴くこともなかった。
その印象が変わったのがCDで「男と女Ⅱ」のサントラを聴いてからである。1987年に日本公開された時は見ることができなかったが、1994年にCD化された時に購入して、そのジャズ・テイストのアレンジに魅せられて、すっかりお気に入りになってしまった。
映画そのものも後にビデオを購入して見ることができたが、その曲が映画ではミュージカル風に歌われており実に新鮮だった。前作の20年後を描いていたが、印象はそんなに変わってはおらず、アヌーク・エーメ演じるアンヌが映画プロデューサーになったことで二人の思い出を撮ることになるエピソードが楽しかった。
そのアンヌの娘であるフランソワーズを演じたのが「愛と哀しみのボレロ」にも出演していたエヴリーヌ・ブイックスで、前年の「遠い日の家族」はル・シネマで観ている。
この映画ではフランシス・レイではなく、ミッシェル・ルグランが音楽担当でラフマニノフのピアノ協奏曲第2番が印象的だった。
その後1991年には「ライオンと呼ばれた男」が公開されて、久々に華麗なフランシス・レイの音楽を聴いて、すぐに魅せられてしまった。
この頃から輸入盤のサントラを買うようになって、六本木のWAVEでこのサントラを見つけた時は歓喜したものである。ここでも主題歌を歌っているのがニコール・クロワジール。
1996年にはミュージカルではない「レ・ミゼラブル」が公開され、引き続き主演のジャン・ポール・ベルモンドとフランシス・レイの音楽に魅せられて、当時レーザーディスクも購入した。
その後の「 男と女、嘘つきな関係」が映画館で観た最後のルルーシュ作品になった。こちらは「男と女」には無関係のストーリーだが、音楽はフランシス・レイでサントラも購入した。
そして今回、昨年1月に日本公開された「男と女 人生最良の日々」をようやく見ることができた。キャッチコピーは「『男と女』から53年。運命の恋がまた始まる……。」で「男と女Ⅱ」はなかったことになってしまった。実際、フランソワーズは子役だった人がそのまま演じて、女優から獣医に変更されている。
さすがにジャン・ルイも老いて認知症になり、介護施設にいる設定で、そこにアンヌが訪ねてくる。そこで描かれる過去と現在と夢が混然一体となって圧倒的だった。その映像に、これが遺作となってしまったフランシス・レイの音楽が夢見るように流れて、まさに陶酔してしまう。
クライマックスは1976年に撮られたパリ周辺を猛スピードで走るシーンをワンカットで撮った短編「ランデヴー」をそのまま使用し、そこにレイの音楽が流れ、新たな魅力が加わった。
サントラが発売されていないのが残念だが、こうしてYouTubeで見て聴くのも悪くない。ニコール・クロワジールも元気そうで何よりである。
それでも、こんなのを見ていると、またルルーシュの映画を見て、レイのサントラを聴きたくなってしまって困ってしまう。「愛と哀しみのボレロ」の4時間にも及ぶ完全版も見たくなってしまった。