ささやかな日常の記録

現在と過去のエンタメなど

【備考】燃える納屋〜納屋を焼く

手塚治虫の漫画は20代の頃に、講談社の全集を中心に読んでおり、手に入る作品はほぼ読破したと思う。その中でも「ブラックジャック」は雑誌連載中から読んでいたこともあり特別な思い入れがある。

大林宣彦が実写化した「瞳の中の訪問者」もレーザーディスクを購入したくらい好きな作品であるが、アニメ版はそんなに見てはいない。放送された2004年頃は仕事に忙殺されていたせいもある。

それでも何話かは見ており、大塚明夫の声はブラックジャックにぴったりだと思った。その大塚が選んだベストエピソード5選というのがネットにあった。

そこで取り上げられていたのが前回の記事で書いた「目撃者」をアニメ化した「一瞬の目撃者」だった。残念ながらアニメは見ていないが、自分の好きなエピソードが選ばれていたというだけで嬉しいものである。

 

その大塚が現在BS4Kで放送中の「大草原の小さな家」ではモーゼス・ガンが演じたジョー・ケイガンの声を担当している。出番はそんなに多くはないが、彼の登場するエピソードは印象的なものが多く、シーズン5の「燃える納屋」もそうである。

この回はメアリーだけでなくローラもほとんど登場せず、基本ガーベイと差別主義者のララビーとの争いがメインの骨太なエピソードになっている。そこにガーベイの息子であるアンディとジョーが深く関わっていく。

基本、当ブログの「大草原」の記事はローラとメアリーを中心に書いているので、彼女たちが登場しない回についてはモチベーションが上がらない。だいたい、ストーリーやテーマよりも映像と音楽により魅せられてしまうだけに、こうした主張が全面に出てくる回について書くのは難しい。

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物語の発端は皆で決めた協定を破ったことに怒ったガーベイに対して、逆恨みをしたララビーがアンディを投げ飛ばしてしまったことに始まる。頭に傷を負ったアンディはランプを持って外に出るが、納屋にランプを置き忘れてしまう。

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そのランプが倒れて火がついてしまうのはシーズン1の「メアリーの失敗」でも描かれているが、ガーベイ家ではシーズン4の「誤解」でも納屋を燃やしており、それが離婚の危機を招いている。

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今回はそれをララビーの仕返しだと思い込んでしまったガーベイがララビーを訴える。前回も離婚調停で判事が訪れるが、今回は陪審員による正式な裁判が開かれる。そこでチャールズが陪審員を任命することになり、黒人のジョーも呼ばれることになる。以前は陪審員になれるのは白人に限られていたようだが、1868年に憲法が修正されて人種による差別がなくなったとのこと。それでもララビーのように黒人を排除しようとする白人は少なくなかったことはよく分かる。

それからチャールズが女性を任命しなかったことも時代を感じてしまう。1920年に女性に選挙権が与えられてからも、男性と同じ条件で陪審員になることができるようになったのは1975年になってからのようである。1970年代に女性映画が多く作られるようになった背景には、こうしたこともあったのかもしれない。

そんな訳でドラマではララビーのアンディへの暴行と納屋への放火が審議されることになる。そこで暴行については全員一致で有罪になったが、放火に関しては一人が反対したことで評決に至らなかった。

その反対した一人がジョーということである。その反対理由こそが当時の黒人の置かれていた状況によるもので、これは現在にも続いている暗い現実である。その現実が大塚明夫の重い低音で語られ、より説得力が増したような気がした。

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以下、次のように続く。

正義が消えればどうなるか知っている

だから何があっても絶対に証拠なしに有罪にできない

この言葉を聞いたアンディが、勇気を出して真実を語ろうとするシーンも印象的である。頭を打った後だけに確かなことは分からない。それでも、もしかしたら自分が原因かもしれないことを正直に告白する。

これを見ていたら「北の国から’84夏」を思い出してしまった。純が火の不始末で火事を出してしまったものの打ち明けられずに悶々とし続けた後で、閉店間近のラーメン屋で父親に涙ながらに告白するシーンは今でも忘れられない。

このように自分に不利益になるかもしれないことを正直に告白するのは勇気がいることである。そんな悩める少年の姿は、かつての自分を見るようで心が疼いた。

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そんな息子を心配する母親のアリスも魅力的だったが、シーズン6でまたしても火事に巻き込まれることになってしまう。

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なお、原題のBarn Burnerは「納屋を焼く人」という意味だが、「白熱した試合」といった意味もあるようなので、この裁判のことも重ねているのかもしれない。

これがBarn Burningになると「納屋を焼く」 というウィリアム・フォークナーの短編小説の題名になる。同名の村上春樹の短編は読んだことがある。それを映画化した「バーニング」も面白かった。