ささやかな日常の記録

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悪夢の音楽2〜エレファント・マン

1981年5月に日本公開された映画「エレファント・マン」は、感動的な映画として日本では大ヒットした。この映画を観たのが1981年9月12日(土)、地元の映画館で併映が「スーパーマンⅡ」だった。この映画を観た後の衝撃は大きくて、細かいところまで良く覚えている。当時の記録には次のように書かれている。

何と形容したらいいのだろう。とにかく今年一番の衝撃である。

身障者の奮闘記などというものではなく、人間とはいったい何なのかといった哲学的テーマで、自分の胸を圧迫した。

何よりも映像の素晴らしさに魅せられ、これほど白黒の画面が効果的だった映画は観たことがない。産業革命期のイギリスの風景のリアルさに、心象風景の幻想性、劇場シーンの美しさなど、これはカラーを超えていると思った。

同時に、時計台の音や、工場の音が、映像をより引き立たせていたのも忘れられない。

エレファント・マンと呼ばれ21歳の短い生涯を閉じたジョン・メリックという男の人生の悲惨さ。奇形でありながら知能は優れていて、聖書を読み、母の写真を常に身に着け、優しい心を持った彼が、市井の人々に追い詰められ「私は獣ではない、人間なんだ」と叫ぶシーンに胸が痛んだ。

そんな人々は彼を見て感情的に驚くが、上流階級の人々はその感情を押し殺す。これは偽善なのかと考えずにはいられなかった。ともあれ、人間の尊厳や偽善といったことを考えさせてくれた素晴らしい作品だった。

当時はまだ前作の「イレイザーヘッド」は公開されておらず、デビッド・リンチの本質など分かろうはずもないが、単なる感動作ではない匂いは感じとれていたようである。

聖と俗、美と醜、善と悪といった相反するものに対するまなざしは、すでに見て取れる。音響(ノイズ)に対するこだわりにも気づいていたのは多少なりとも映画を見る目があったということである。

そんなリンチの作家性でもラストは感動的で涙を禁じ得ない。制約の中で自分のカラーを出しつつも、きちんとストーリーを語っているのは、本作と次作「砂の惑星」までである。

ジョン・モリス作曲のサントラも印象的で、サーカスで流れるような華やかな音楽でありながら、哀しみを漂わせたメロディは今でも耳に残っている。

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その曲名には次のような言葉が並ぶ。「見世物小屋」「詩篇」「舞台」「サーカス」「駅」「パントマイム」そして「悪夢」・・・。

サントラにはアンドレ・プレヴィン指揮による「弦楽のためのアダージョ」も収録されている。あの映画「プラトーン」でも使われた名曲がラストシーンで流れて、忘れられない記憶になっている。


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ジョン・モリスは、この映画のプロデューサーであるメル・ブルックスの作品を多く手掛けており、中でも「プロデューサーズ」は悪夢でありながら楽しいミュージカル・ナンバーが最高である。


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