早朝のサイクリングで虹を見た。
最近はずっと梅雨のような雨の日が続いていたので、束の間の晴れ間だった。
東の山から朝陽が出る前に、南の山から北の山にかけて巨大な虹が架かっていた。
こんな大きな虹を見たのはいつ以来だろうと思った。
東京では普通に見ていたと思うが、写真には残されていなかった。
仕事に追われて虹を愛でる心の余裕がなかったのかもしれない。
当地に戻ってからは出不精になっていたので間違いなく見ていない。
それでも少年時代には見ているはずなのに、その記憶がない。
虹を美しいと感じる感性が育っていなかったのかもしれないし、
ただ単に当たり前すぎて忘れてしまっただけかもしれない。
いずれにせよ、今こうして見ることができてラッキーだった。
写真でも分かるが、晴れと曇りが虹を境にせめぎあっている感じだった。
やがて雨が降り出したので、曇りが勝ったということである。
これを見ていて黒澤明の映画「夢」のエピソードを思い出した。
日照り雨
江戸時代を思わせる屋敷の門前で、幼い私は突然の日照り雨にあう。畑仕事帰りの母から冗談交じりに「外へ出ていってはいけない。こんな日には狐の嫁入りがある。見たりすると怖いことになる」と言われるが、誘われるように林へ行くと道の向こうから花嫁行列がやってくる。しかし、木陰で見とれている私の存在を次第次第に意識するそぶりを見せつけてくる行列に、居たたまれなくなって自宅に逃げ帰ってしまう。帰り着いた屋敷は一転して冷たく閉ざされ、門前に立つ母は武家の女然として短刀を渡し、自ら始末を付けるよう告げ、引っ込んでしまう。閉め出された私はさまよううちに、丘の上から雨上がりの空を見上げるのだった。