ささやかな日常の記録

現在と過去のエンタメなど

映画「あゝ荒野」

新年早々、凄いドラマを見た。昨年10月に前後編で公開された「あゝ荒野」の完全版全6話である。原作は寺山修司で、時代的に「あしたのジョー」を彷彿とさせる内容だ。

親に見捨てられた2人の青年が自らの業と格闘する物語。最初は絆で結ばれた2人が、やがて袂を分かち、激突する。憎しみがなければ勝てないというボクシングの世界で、お互いに対する気持ちは複雑だ。そのあたりの葛藤は少々分かりづらかったが、2人の苦しみは深く胸に響いた。そんな幹の部分は単純だが、その枝葉には現代の問題が色濃く映し出されていた。

オリンピック後の2021年、時代は今より暗澹としている。若者には自衛隊に入るか、介護施設で働くかの選択が迫られる。自殺者が増え、自殺防止セミナーの活動や振り込め詐欺での闇も描かれる。さらに震災での被災者までもが登場する。そうした背景を背負った登場人物たちが出会い、化学反応を起こしていく。

前半はボクシングに出会い、成長していく姿が描かれ、スポ根ものとしても楽しめた。ところが後半は仲間同士が訣別していくので、モヤモヤした感情が拭えなかった。主演の菅田将暉とヤン・イクチュンがとにかく熱かった。

菅田は大河「直虎」でも後半は実質的な主役だった。映画でも「共食い」「そこのみにて光り輝く」「何者」と存在感があった。でんでんのトレーナー役はいかにもだが、ユースケ・サンタマリアの汚れっぷりは良かった。女性たちも皆、陰影が深くて魅力的だった。木下あかりに、その母親役の河井青葉、どちらも体を張った熱演。さらに名前も分からない女性たちが皆、存在感があるって凄い。新宿シンジとバリカンけんじが東京という荒野を彷徨う姿は美しくも切ない。

f:id:hze01112:20190305134708j:plain