ささやかな日常の記録

現在と過去のエンタメなど

大林映画の凄み

日本映画専門チャンネルでの大林宣彦特集は良かった。見たかった「この空の花」をはじめ、その姉妹編ともいえる「野のなのなのか」も見ることができた。旧作では劇場映画デビュー作「ハウス」を文芸坐で見て以来、何十年ぶりかで見直すことができた。82年に火曜サスペンス劇場で放映された「麗猫伝説」と「可愛い悪魔」も見た。あとは尾道三部作が放映されたが、「転校生」だけを見直した。これは今年WOWOWでも放映したばかりだったので、できれば新・尾道三部作だったら完璧だった。今見たいのは「ふたり」「あした」「はるか、ノスタルジー」あたりの作品である。

それにしても「この空の花」は凄かった。一度見ただけでは消化しきれず、二度目を見てようやく全体像をつかむことができた。ダイアローグの氾濫に、デジタル処理による斬新な空襲シーン。現実と虚構が混然一体となり、生者と死者が同居する世界。戊辰戦争、太平洋戦争、中越地震東日本大震災と続く歴史と花火との関わり。クライマックスはバックにフリージャズまで流れる。やはり、どうしたって1回だけで理解できるはずがない。日が経つにつれて、頭の中にモヤモヤしたものが浮かんできて、また見てしまう中毒性がある。久々のコラボになる久石譲の主題曲も印象的だ。田園風景の中を一輪車に乗った少女が風のように駆け抜ける。このイメージだけでも素晴らしい。

そして、この次の作品が「野のなのなのか」。この作品もまた1回見ただけでは分からない情報量の多さに圧倒させられてしまった。一人の老人の死が波紋を広げていく。血縁だけではなく、地域社会であり、また過去でもあり、未来でもある。ここでも生者と死者は対等に存在し、死者は姿を変えて現れもする。そして戦争の記憶が甦る。8月15日の終戦後でも樺太では戦闘が続き、9月になってようやく終わったという事実。それは三角関係の恋の哀しい結末でもある。大林映画初登場の常盤貴子をはじめ、寺島咲も、山崎紘菜も、安達祐実も存在感があって魅力的だ。中原中也の詩が引力となって生と死が混在していく。テレビドラマでようやく名前と顔が一致した品川徹が主演というのも渋すぎて最高だ。

とにかく、この2本を見て、改めて想像力の大切さを痛感した。年齢と共に感性は衰えていくが、それをそのままにしていてはいけないと思った。大林は70歳を過ぎて、これらの映画を撮ったのだ。これからも、じっくりと付き合っていきたいものである。