ささやかな日常の記録

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芸術祭大賞ドラマ「サギデカ」に至る道

今年の芸術祭の受賞作品が決まった。ドラマでは「サギデカ」が大賞だった。

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ブログで感想は書けなかったが、今年のドラマで全話録画を残した作品の一つだった。同じようなテイストの「デジタル・タトゥ」が優秀賞。

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こちらも面白かったが、ちょっと散漫な印象だった。どちらもNHK土曜ドラマ枠での放送で、社会問題に斬り込む伝統の枠は健在といったところ。

その土曜ドラマの記念すべき第1回の作品を見ることができた。1975年に放送された松本清張シリーズの「遠い接近」である。戦時中の赤紙を巡る復讐劇。赤紙が役所の担当者の采配により恣意的に決められていたという視点は考えたこともなかった。今でも世襲や縁故がまかり通る日本社会においてはさもありなん。それによって運命を狂わされた主人公を小林桂樹が演じ、最初に復讐される男が荒井注。その他、笠智衆吉行和子中条静夫、下山勉、伊佐山ひろ子と見事な布陣。これに大野靖子の脚本に和田勉の演出というのだから面白くない訳がない。ささやかな日常を送っていた庶民の一人がちょっとしたことで運命を狂わされていく状況が恐ろしかった。これがわずか70分の中で描かれるのだから、その凝縮感は圧倒的だった。

続いて翌週に放送された「中央流沙」も見ることができた。これは何度かドラマ化されているだけあって、汚職をめぐる官僚の姿が生々しい。今のIR疑獄や森友問題などが容易に想像できてしまう。局長が佐藤慶、その部下が川崎敬三、責任を負わされて殺されてしまう課長補佐が内藤武敏。その他、加藤嘉、角野卓三、日下武史中村玉緒中原ひとみといった錚々たる面々。アフタヌーンショーの司会でしか見たことのなかった川崎敬三の凡庸と狡猾の入り混じった表情が印象的だった。

 制作は近藤晋で、ここがスタートだった。その後、山田太一と組んで「男たちの旅路」「獅子の時代」「シャツの店」などを作り、大河では「黄金の日日」「山河燃ゆ」などをプロデュースした。今はみられない骨太な作品を作り続けた方で、数々の作品を若い頃に見られたのは幸運だった。2016年には山田と久々に「五年目のひとり」を作り芸術祭では優秀賞を取った。残念ながらこれが最後の作品となり、2017年に亡くなった。

その「五年目のひとり」に出演した市原悦子は今年亡くなってしまった。そして蒔田彩珠は昨年「透明なゆりかご」に出演した。その「透明なゆりかご」が昨年の芸術祭で大賞だった。その「透明なゆりかご」と「サギデカ」を繋ぐものが、脚本の安達奈緒子である。2年連続での受賞は凄いとしか言いようがない。

その二つのドラマを制作したのが高橋練で、近藤亡き後で気になるプロデューサーの一人である。今年はその他に「みかづき」「マンゴーの樹の下で」「歪んだ波紋」を制作している。これらの作品も忘れられないが、感想を書くことができなかった。過去には「外事警察」「チェイス」「足尾から来た女」「10年先も君に恋して」を制作しており、すべて録画を残しているお気に入りのドラマである。

ちなみに「サギデカ」で共演した木村文乃青木崇高は今年WOWOWの「蝶の力学 殺人分析班」にも出演。シリーズ3作目であるが、これを「サギデカ」と比べると安達奈緒子の脚本がいかに優れているかが良く分かる。「サギデカ」の木村と青木は実に魅力的だったということに尽きるだろう。

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