ささやかな日常の記録

現在と過去のエンタメなど

【1998】ドラマ「眠れる森」の記憶

25年前の今日、1998年5月27日にCDプレイヤーを67,000円で購入したが今でも現役で、それで昔のCDを聴き続けている。当時、よく聴いていたのが中山美穂のCDだった。

同じ年の6月5日には自宅で初めてネットに接続して中山美穂のファン・サイトを見て本人からの書き込みに興奮したことを覚えている。

そして10月8日にドラマ「眠れる森」が始まった。中山のドラマをリアルタイムで見るのは初めてだった。中山に魅せられたのは前年に映画「東京日和」を観てからで、それから後追いで「Love Letter」を観てハマってしまった。その前にも「どっちにするの」と「波の数だけ抱きしめて」は観ていたが、その時はハマるまでには至らなかった。

その後、ドラマでは「二千年の恋」「Love Story」「ホーム&アウェイ」と見続けたが、2002年の結婚を機に熱は急速に冷めていった。期間としては5年足らずであったものの、多くの作品に触れることができたが、その中でも最も印象的だったのが「眠れる森」だった。

1996年に中山はドラマ「おいしい関係」に出演しているが、この脚本を担当して途中で降板したのが野沢尚だった。野沢はその翌年にドラマ「青い鳥」の脚本を書いており、自分にとっては忘れられないドラマだった。その野沢の最新ミステリーに中山と木村拓哉が出演するということでいやがうえでも期待は高まっていた。放送日の朝刊に載った広告も切り抜いて保存したほどである。

その初回を見た時の興奮は今でも鮮明な記憶として残っている。翌日には珍しく自分から会社の女性たちに話しかけたほどである。とにかく中山が魅力的で、それだけでも十分だったのにストーリーも劇伴も映像(ロケーション)も最高だった。

少女のころに受け取った手紙に誘われて深い森に踏み込んでいき、ハンモックで眠っている青年と出会うシーンは素晴らしい。ここだけでも何度も繰り返し見たくなるほどである。そこで淡い思いは雨に打たれて不穏な思いに変わっていく。

そこからドラマは二転三転と予想外の方向に転がり続け、12月24日のクリスマス・イヴにクライマックスを迎えることになった。この日の最終回は30分ちかい拡大版だったにもかかわらず視聴率は30%を超えたというから凄い。翌日は仕事だったけど金曜日というのが救いだった。

それでも見終わった後はちょっとした興奮状態でなかなか眠れなかった。この日に至るまで仕事は年末進行で忙しかったうえに忘年会の幹事も引き受けていた。さらに26日には引越しすることになっており、その準備にも追われていた。

とにかく時間がなかったが無事に引越しも済み、28日が仕事納めだった。その日、電車に揺られて新居に帰宅する自分はドラマのラストシーンみたいだった。その日の夜からインフルエンザによる高熱により寝込むことになった。

当時、あのラストシーンについては色々な憶測が飛び交ったが、今では経験として理解できるようになった。倒れて頭をぶつけてしまうという現場に2度も居合わせることになった。どちらも対応が早かったせいで最悪の事態を免れることができたが、放置していたらドラマと同じことになっていたのは間違いない。

そうしたアクシデントだけでなく、誰しも病気などによって記憶が失われてしまう可能性がある。自分も年々記憶力と文章力が衰えているので、いつまでブログで昔のことを書き続けることができるのか分からない。

忘れるだけでなく、都合よく書き換えられてしまうことだってある。それだけに、できるだけ正確に記録しておきたいと思うものの、これが難しい。

ドラマで印象的だったのはこうした記憶の改ざんだけではなく、そうした記憶を共有するために対象を見続ける行為そのものでもある。それが良い方向に活かされれば創作の源にもなるであろうが、悪い方向に向かえばストーカー行為になってしまう。

絵を描くこともそうである。画家がモデルを見続けるだけでなく、モデルもまた画家を見返している。聖母マリアと母親というモチーフがドラマをミステリアスに彩っていたことも忘れられない。

ドラマを彩るといえば音楽もそうで、主題歌の「カムフラージュ」も大好きだった。今でも竹内まりやの歌ではマイ・ベストである。挿入歌として使用されたU2の「ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー」もお気に入りで、アルバム「ヨシュア・トゥリー」は何回聴いたか分からない。1989年11月25日には東京ドームでのコンサートにも出かけている。

劇伴は複数のアーティストが担当しており名前はクレジットされていないが、主に吉俣良が担当している。しかし、もっとも強烈でサスペンスフルな「黒の慟哭」を作曲したのは村山達哉という方である。その来歴を調べると子供時代に初めて買ったレコードが007のベストで、その後ポール・モーリアなどのイージー・リスニングにも魅せられたということで妙に納得してしまった。映像にマッチした実に分かりやすくて効果的なサウンドである。当然、サントラも購入してよく聴いたものである。

そんな訳でつい長々と書き続けてしまったが、もっとも書きたかったドラマの内容と出演者のことは書けなかった。久々に当地でも再放送があったので録画して一気見してしまったが、感想を書くのは難しいと改めて思ってしまった。今年になって「青い鳥」の再放送も見ることができたが、やはり野沢の作劇の巧みさに魅せられてしまった。「青い鳥」では人生の生き直しについて童話的な救いがあったが、「眠れる森」にはリアルな厳しさがあった。ドラマの初回で次のようなセリフがあった。

みんなバタバタと死んでいくだろう
いい大人が自分の人生 
引き受けることができなくて
自滅していく
人生は童話じゃないんだ
自分が背負ってしまったものを
一生抱えて生きていくしかない

ドラマでは冒頭に福島の市議会議員一家の悲劇が描かれたが、現実でも同じような悲劇が繰り返されている。昨日の長野での市議会議員の息子による凶行をニュースで見て、暗澹たる気持ちになった。

そんな心の闇を描いた野沢も自滅してしまった。そんな彼の創作スタイルを明かした著作を再読しているところである。